はなみずにっき

はなみずぐらいのブログ    コピーライター/脚本家

続けられない才能

「……あなたは何をやってもダメね」

彼女はそういって出て行った。
冷たく突き刺さったあの言葉が、今なお響く。

たしかに僕はうだつのあがらない男だ。
突出した才能はないし、何をしても続かない。
それどころか、諦めやすいし、人生に大した期待もしていない。

いわゆる、負け癖ってやつだ。
パッとしない人生の履歴書がそれを物語っている。


「この薬を飲めば、意志薄弱な自分を変えられますよ」
そう言って処方されたこのカプセルは、
興奮性の神経伝達物質に作用し、
思考や行動を活動的にしてくれるらしい。

僕のようなネガティブ人間には打ってつけだろう。
医学には明るくないが、精神的な疾患は
本人の性格や環境によるものがほとんではないのか。
話半分、しかし自分を変えられるという希望的観測も半分持ちながら試してみることにした。


服用初日にも関わらず、やる気がめきめき湧いてくる。
あらゆるモチベーションが高まり、人生の目的や生き甲斐などを設定しだす。
今までは三日坊主で続かなかったことを洗い出してみる。

早寝早起き
健康的な食事
部屋の掃除
日記をつける
読書の習慣
ランニング
貯金
英語の学習

どれも、今ならたやすく継続できそうだ。
ついでに、今後の人生の目標を思い付くままに書き出す。

世界一周
何か名誉のある賞を授賞
新聞の一面に載る
結婚
年収1000万
親孝行

どれも幼稚に思えるものだが、エネルギーに満ちあふれている今なら目指したいものばかりだ。
服用1週間。初日の勢いは衰えぬまま、規則正しい生活習慣を続けている。
服用1カ月。少々、疲労がたまってきたようだ。しかし情熱は冷めることを知らない。
服用3カ月。身体に影響が出始める。しかし、目標達成のためには致し方ない犠牲だ。
服用6カ月。ついに結果が出始めた。体調不良が続くものの、あらゆるものにコストはつきもの。
服用12カ月。もう……ムリかもしれない。


人間はプログラムじゃない。
心が求めていないこと、身体がいやがることは、できないようになっている。

続けられない才能。できない強さ。ダメな喜び。
人の価値観においてネガティブに思えるものは、
裏を返すと、本能が反応している防衛態勢なのかもしれない。

 

忘れるよろこび。
終わりがある幸せ。
これも生命が持つ最高の機能と言える日がくるだろうか。